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今回は今月のレッスンの中で特に気になった「発音原理の誤解による不調やスランプ」についてまとめておきます。
バズィングやマウスピースの練習については意見が分かれやすいところですが、その原因は「金管楽器の発音の仕組みへの誤解」にあると思います。
金管楽器は「唇の振動音を共鳴させて」演奏しているのではありません。
かくいう僕も大学院までそうだと信じていたので偉そうなことは言えませんが、運よく音響学の先生から金管楽器の発音の仕組みについてお話を聞ける機会があり(本当に偶然その話になっただけで今思えば本当に幸運だった)、そのことでそれまで調べてきたことの辻褄が合ってきました。
金管楽器の本来の発音の仕組みは、息が管の中に流れ波となり一部はベルから音として外に出て大部分は返ってくる、そのことによって唇が振動させられる、つまり、息と楽器の共同作業によって唇が振動させられている、かなりざっくり言うとこのような仕組みによるものだそうです。
一方でマウスピースでのバズィングではこの働きは起こりません。息の力で強制的に唇を振動させ、その振動音がマウスピースの中に響いているだけです。
先述の音響学の先生によれば、「マウスピースで楽器と同じように吹けば、音が鳴らないか、違う音程が鳴るはず」というのです。
ここまでの内容は以前から書いてきましたが、なぜまたこうして書いているかというと、今月のレッスンの中で、部活の先生から「マウスピースで正確に音程をとれるようにすること」「マウスピースでパートの音色を合わせること」という指導を受けていてそのたびに調子を崩してしまうという生徒がいたからです。
試しにマウスピースで音が出ているそのままの吹き方で楽器をつないでみれば変な音になるので何か違うと気づくはずです。
さて、ここからが本題です。
今回何が言いたいかというと、
多くの人が、
・マウスピースと楽器で音の出る仕組みが違うことくらいなんとなくわかってる。
・アンブシュアは結果であって外から作るものではないこともなんとなくわかってる。
でも今現在、信用を勝ち得ているのは、
・マウスピースで音程を取れることが大事!
・マウスピースで音色を作ってパートで合わせよう!
・アンブシュアを美しく整えよう!
今なおこんな状況です。
これらが善とされていて疑いなく(仕方なく?)信用されている場面があります。
バズィングもやり方によってはきっかけとして非常に有益ですが、楽器では息と楽器の共同作業の結果として唇が振動しているので、そもそも、息が楽器に流れる前に唇が振動してしまっては不都合で、一致させようとすれば吹きにくくなる一方です。
その結果、難しいバズィングの練習をしっかり頑張ってマウスピースや唇だけでも音程をコントロールできるようになったのに、楽器はどんどん吹きづらくなり、表現がどんどん不自由になってしまう。
これでは逆走です。
バズィングなんてできなくても気にしない、器用に切り替えられる、全員がそんな生徒なら良いですが、真面目に頑張った生徒がどんどん吹きづらくなってしまうようでは指導法として良くないのではないかと思います。(努力を肯定できない風土に繋がってしまう)
では、すでにその不調にはまってしまっている場合にどうしたら良いのか、また、その沼にはまらずに健康的に上達するにはどうしたら良いのか。
【既に調子が悪い場合】
①ひとまずバズィングの練習はやめる。
②唇が振動しないように息を流し、楽器から音が出る(唇が振動する)のを待つ。
③この段階で新しい吹き方に切り替わるので、この状態での息の流れや口周辺の感覚を覚えていく。
※マウスピースで音が出ないように息の流れを練習すると良い、音が出るように練習してしまっては意味がないとする意見さえあります。
※唇が先に振動して楽器に共鳴する状態から、息が先に流れたあと唇が振動する状態へ切り替えます。
【沼にはまらないために】
①「音の出る仕組みが全く異なる=吹き方もアンブシュアも全く異なる」ことを自覚する。
②唇を振動させることよりも、自然に息が流れるかどうかを評価規準とする。
マウスピースと楽器とでは本当は全く異なることをしているにも関わらず、吹いている本人の認識としてはかなり似た動作をしているので混乱を生みやすく注意が必要です。
既に混乱している(マウスピースを吹くように楽器を吹いてしまっている状態)場合には、丁寧に解きほぐしてあげる必要があります。
また、そうした不要な不調を引き起こさないためにも、発音原理の正しい理解に基づいた指導が不可欠だと、個人的には思います。
とはいえ現状の多数派は「唇の振動音を共鳴させる」の方なのかもしれません。しかし、これは事実と異なります。
唇の振動を共鳴させようと真面目に努力して苦しみ続ける生徒もいます。振り回されるのは生徒です。
こんな状況はさっさと過去のものにしましょうよ。
注:バズィングの練習はやり方によっては非常に有益です。ただし、楽器と一致させるという考え方には反対です。本来の仕組みと異なるので調子を崩します。
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