
現在は金管楽器専門の音楽教室をweb上で運営している。
ほとんどはオンラインでのレッスン。対面でのレッスンを希望される方にはもちろん対面でレッスンを行うが、オンラインなら場所や時間の制約もあまりなく習い事として受講するにしても送迎が必要ない。
「オンラインでできるの?」という声も稀にあるが、オンラインで伝えられないことが対面で伝わる保証はない。
頂いた喜びの声がオンラインレッスンが可能であることの確信に繋がっている。
“フォーカル・ジストニアを克服して演奏復帰した人が、体の使い方を整えることで劇的に吹きやすくなるレッスンを、オンラインでやっている。”
活動内容を端的にまとめるとこんな感じ
フォーカル・ジストニアというのは、何か特定の動作をしようとするときにだけ体のコントロールが効かなくなる病気。スポーツの世界だとイップスと呼ばれるものが近い存在だと思う。
演奏家の場合には演奏しようとするときに体が上手くコントロールできなくなり演奏に支障がでる。ピアニストであればピアノを弾くときだけ手が動かないとか、声楽家であれば歌おうとすると声が出ないとか、金管楽器奏者であれば音を出そうとすると口が閉じないとか…こんな不思議なことが起きる。
それが起きる原因はあまり良くわかっていないようだし、医学の領域なので僕にそれを語る資格はないが、ここから復帰できるのかどうかは大きな問題だ。
ジストニアが原因で演奏から離れてしまう人もいれば、長い時間をかけて克服した人だっていないわけではない。
どんな選択をするかは人それぞれだろうが、僕はそれでも吹きたかった。
明らかに発症したのが分かったのは、2010年の夏、国立音楽大学大学院に入学した年のことだった。その前から吹きにくさは感じていたもののそれをごまかしながら何とか演奏していた。しかし、この時は状況が全く違った。
音を出そうとしても舌が離れず息を流すことができない。どんな音でもいいからとりあえず出すという事ができなくなった。
最初は中音域だけだったこの症状は次第に全音域へと広がり全く音を出すことができなくなってしまった。
ジストニアという言葉を知ったのはそれから少し経って、ピアノ科の先生が渡してくれた新聞の切り抜きからだった。当時は資料も少なくWikipedia英語版には事実上キャリアの終わりなどと書いてあった。
しかし、ジストニアについて調べていくうちに、新しく”正しい動き”を覚え直すことで再起することができるらしいという情報を得た。自分の体に”正しい動き”を教え直すことで復帰することができるのであれば、まずはその”正しい動き”とやらを解明する必要がある。
幸いどんな状態が理想的かを示す文献は既に多く出ており(多くは感覚に基づくものではあったが)、その情報を精査する以外に必要なことは、その状態を自分の体に再現するための練習法の構築だけだった。
かくして、理想の状態を自分の体にインストールすることができる魔法のような練習法が作り上げられた。呼吸や発声からアプローチするこの方法を試してくれた金管楽器奏者の仲間たちにも大いに喜ばれた。
しかし、この方法をもってしてもなお僕の体のコントロールは戻らなかった。”正しい動き”が上書き保存されるには想像より遥かに長い時間が必要だった。
それから9年。
再び演奏できるようになった今、演奏に困っている人や上手くなりたい人が、検索すれば誰でも辿り着けるweb上に音楽教室を開業し、わざわざ会いにこなくてもレッスンが受けられるようにオンラインでレッスンを行っている。レッスンを受けなくても学べるように、電子書籍としてテキストでまとめ、オンラインスクールで100本の動画を配信している。
吹き方に悩むことなく、たくさんの人が金管楽器での音楽表現を楽しめるようになることを切に願っている。
こうして、フォーカル・ジストニアから演奏復帰した人による、体の使い方を整えることで劇的に吹きやすくなるレッスンをする金管楽器教室がweb上に誕生した。
開業から8ヶ月経った今、全国から20名弱の方が継続して受講してくださり、着々と上達している。
曲の中でhighCをかっ飛ばしてくれるトランペットの中学2年生や、初めてコンテストで代表に選ばれた高校生、吹きやすくなりすぎて焦ると仰る一般の愛好家の方、僕と同じようにジストニアに苦しみながらも快方に向けて着実に進む方…
たくさんの方に喜んでいただいて、”この教室を初めて良かった”という思いで年末を迎えることができた。
ぶっちゃけ教員への未練もあるが、僕にしかできないかもしれないこの仕事は大切にしていきたい。
さて、来年。
レッスンの更なる充実と共に、年明けから演奏活動もばりばりやっていきたい。来年の本番もすでにいくつか決まっている。
それに加えて、専門教育を受けた高い演奏技術をもつプレーヤーが星の数ほどいるなかで、それを社会に活かす仕組みがないことへの課題意識を形にし、演奏の場・演奏の仕事を生み出す仕組みづくりにも本腰を入れていく。
とにかく今は、今必要だと思うものを作り切って自走させることを目指したい。
その上で教育と演奏の往還に集中したい。
今、楽器を吹くことが本当に楽しい。
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